「10月から最低賃金が上がるらしい。でも自分の給料明細は、たぶん何も変わらない」——そう感じている工場勤務の正社員は多いと思います。
私も工場で10年以上働いてきて、毎年この時期にモヤモヤしていました。パートさんの時給は上がる、派遣の単価も上がる。なのに自分の基本給は数千円しか動かない。あるとき「自分の時給換算、あの人とほとんど変わらないんじゃないか」と気づいて、なんともいえない気持ちになりました。
最低賃金が上がっても正社員の給料が変わらない理由と、そこで損をしないための考え方を、現場目線で書きます。
2026年度の最低賃金はどう変わったのか
2026年9月に全47都道府県の改定額が答申され、全国加重平均は1,177円になりました。前年度の1,121円から56円の引き上げで、引き上げ幅は都道府県によって54〜65円です(※1)。
| 項目 | 2026年度 |
|---|---|
| 全国加重平均 | 1,177円(前年度1,121円/+56円) |
| 最高額 | 東京都 1,280円(+54円) |
| 最低額 | 宮崎県など 1,085円 |
| 発効日 | 10月1日〜12月2日にかけて順次 |
ここで押さえておきたいのが、発効日が全国一律ではないことです。10月1日に切り替わるのは15都道府県だけで、残りは11月〜12月2日にかけてずれていきます(※1)。「10月から上がる」と聞いていても、自分の県はまだという場合があります。自分の勤務先の都道府県の発効日は、厚生労働省や各都道府県労働局のページで確認してみてください。
なぜ正社員の給料は上がらないのか
理由は単純です。最低賃金は「時間あたりの下限」を定めるものだからです。月給制の正社員が時間換算でその下限を上回っていれば、会社としては何もしなくても法律上の問題はありません。
会社の立場で考えると、最低賃金が上がったときにまず直さなければならないのは、下限に抵触するパート・アルバイトの時給です。そこを優先して対応するため、正社員の基本給は後回しになりやすい構造になっています。
さらに、工場の正社員は昇給そのものが緩やかです。中小製造業の定期昇給率は年1.0〜1.8%程度のところが多く、基本給20万円なら年に2,000〜3,600円しか上がりません。事務職や営業職の昇給率(2.0〜2.5%)と比べて0.5〜1.0ポイント低く、10年で年収差が10〜20万円に広がるという指摘もあります(※2)。
ライン作業は個人の成果が数字で出にくいため、評価が年功序列に寄りやすいのも背景にあります。頑張っても給料に反映されにくい、というのは気のせいではありません。
自分の「時給換算」を計算してみる

モヤモヤを数字に変えるために、自分の時給換算を出してみてください。計算はこうです。
月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 = 時給換算
1か月平均所定労働時間は、(365日 − 年間休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12で求めます(※3)。年間休日120日・1日8時間なら、(365−120)×8÷12=約163時間です。
仮に基本給20万円・年間休日120日・1日8時間なら、20万円÷163時間=約1,227円。全国平均1,177円との差は50円ほどです。地域の最低賃金が1,196円の県なら、差は30円しかありません。
「手当込みなら高い」が通用しない理由
ここがいちばん知っておきたい部分です。「いや、自分は夜勤手当や皆勤手当を足せば月25万円はある」と思うかもしれません。ところが最低賃金と比べるとき、その手当の多くは計算に入れられません。
最低賃金法第4条第3項により、次の賃金は最低賃金の対象から除外されます(※4)。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外割増賃金(残業代)
- 休日割増賃金
- 深夜割増賃金のうち通常の計算額を超える部分(深夜手当の割増分)
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
固定残業代(みなし残業代)も所定時間外労働の対価なので、比較対象から差し引いて計算します(※3)。
つまり工場勤務者が手取りを支えている夜勤手当の割増分・皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与は、どれも最低賃金の比較には効かないということです。残るのは基本給と、それに準ずる固定的な手当だけ。「手当込みでは25万円」でも、最低賃金と比べる土台は基本給20万円のほうになります。
ここに気づくと、「まわりの時給は上がっているのに自分は変わらない」という感覚の正体が見えてきます。
手当頼みの給料が抱えるリスク
実際、「夜勤手当・皆勤手当・食事手当を足してようやく手取り20万円。手当が消えたら生活が回らないと気づいた」という声があります。額面25〜26万円で手取りが約20万円というのが相場で、社会保険料と税金で2割前後が引かれる計算です(※2)。
手当に乗った給料の怖いところは、崩れるきっかけが多いことです。
- 日勤の部署に異動になる → 夜勤手当が消える
- 体調を崩して夜勤を外れる → 同じく消える
- 家庭の事情で一度休む → 皆勤手当が崩れる
- 残業が減る → 残業代が減る
しかも賞与は基本給に連動するのが一般的で、退職金の計算も基本給ベースのことが多いです。基本給が低いままだと、月々の手取り以上のところで差が出ていきます。「何年働いても基本給が上がらず、手取りが20万円を超えない」という不満は、ここに根があります。
損しないための3つの現実的な選択肢
1. 今の会社で基本給そのものを上げる
資格手当や等級アップで基本給に積む道です。第二種電気工事士、危険物取扱者乙種第4類、機械保全技能士、フォークリフトなどは工場で評価されやすく、在職中に取れます。手当として付くだけでなく、等級が上がれば基本給に反映される会社もあります。
2. 基本給の設計が良い会社に移る
同じ製造業でも、基本給の割合は会社によってまったく違います。基本給18万円+手当7万円で25万円の会社と、基本給23万円+手当2万円で25万円の会社では、賞与も退職金も将来の昇給も変わります。額面が同じでも中身は別物です。
3. 基本給が上がりやすい職種に移る
設備保全・生産技術・品質管理など、専門性が評価される職種は経験と資格が収入に反映されやすく、年功だけで決まりにくいのが特徴です。しかもこの分野は「職種未経験OK・第二新卒歓迎」の求人が出ており、業界未経験歓迎・完全週休2日・年間休日120日以上・資格取得支援といった条件のものもあります(※5)。工場の現場経験を土台にできるので、まったくの異業種に飛ぶより現実的です。
求人票の基本給の内訳までは外から読み取れないことが多いので、dodaのような転職エージェントに登録して、担当者に確認してもらうと早いです。
求人票で見るべき5つのポイント

給料で後悔しないために、求人票ではここを見てください。
- 「月給25万円」の内訳:基本給はいくらか、固定残業代が何時間分含まれているか、手当がいくらか
- 固定残業代の有無:含まれていると、残業しても増えない時間帯がある
- 賞与は基本給の何ヶ月分か:基本給が低いと賞与も小さくなる
- 昇給の実績額:「昇給あり」ではなく、実際に年いくら上がっているか
- 年間休日日数:時給換算に直結する。120日と105日では時給換算が1割以上変わる
この5つは求人票に書かれていないことも多く、面接で聞きにくい項目です。エージェント経由なら担当者が代わりに確認してくれます。
まとめ
最低賃金が上がっても正社員の給料が動かないのは、最低賃金が「下限」を定めるものであり、月給制でそれを上回っていれば会社に対応義務が生じないからです。2026年度は全国平均1,177円へ56円引き上げられましたが、10月1日に切り替わるのは15都道府県だけで、発効日も地域でずれます。
そして工場勤務者が頼っている夜勤手当の割増分・皆勤手当・通勤手当・家族手当・賞与は、最低賃金の比較には算入されません。「手当込みなら悪くない」と思っていた給料が、基本給で見ると下限とわずかな差しかない、ということが起こります。
まずやることは、自分の時給換算を計算してみることです。月給を1か月平均所定労働時間で割るだけで、現状が数字で見えます。そのうえで、基本給を上げる3つの道——資格・等級で積む、基本給設計の良い会社に移る、専門性が評価される職種に移る——のどれが自分に合うかを考えてみてください。
求人票の基本給の内訳や昇給の実績まで確認するなら、dodaとリクルートエージェントの2社に登録しておくと比べやすくなります。どちらも無料で、登録しただけで転職が決まるわけではありません。まず自分の基本給が市場でどのあたりなのかを知るところから始めてみてください。
参考資料
※1 令和8年度 地域別最低賃金の改定額・引上げ額・発効予定日(厚生労働省公表資料および同資料をもとにした集計)
※2 中小製造業の定期昇給率、額面に対する手取り率、工場勤務の給与構成(製造業向けキャリアメディアの集計)
※3 最低賃金の時間額換算方法(月給÷1か月平均所定労働時間)、1か月平均所定労働時間の算出式、固定残業代の取扱い(社会保険労務士監修の解説記事)
※4 最低賃金の対象から除外される賃金(最低賃金法第4条第3項/厚生労働省労働局および労働組合の解説ページ)
※5 生産技術・品質管理の未経験歓迎求人の条件例(大手転職サイトの求人情報)
※本記事は一般的な制度の説明です。自分の勤務先の都道府県の発効日や、個別の賃金が最低賃金を満たしているかの判断は、厚生労働省・各都道府県労働局の公表情報、または労働基準監督署の相談窓口で確認してください。



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