「ライン作業をこのまま続けて、10年後の自分はどうなっているんだろう」——そう考えたとき、同じ工場の中でステップアップする道として設備保全が目に入る人は多いと思います。
私は工場で10年以上働いてきました。ラインの脇を歩き回り、機械が止まるたびに工具を持って駆けつける保全の人たちを、ずっと近くで見てきた側です。正直に言うと、当時の私は「あれは専門の人がやる仕事で、自分には関係ない」と思い込んでいました。
でも調べてみると、設備保全は未経験からでも入り口のある職種でした。しかも工場でライン作業をしてきた経験が、そのまま武器になります。未経験から設備保全を目指すときの現実的な道筋を、現場目線で書きます。
設備保全とはどんな仕事か

設備保全は、工場の機械やラインが止まらないように点検・修理・改善をする仕事です。大きく3つの柱に分かれます。
- 点検:日常点検と定期点検。異音や振動、油の量などを決められた項目で見て回る
- 修理:設備が止まったときの故障対応。原因を切り分けて部品を交換する
- 改善:そもそも止まらないようにする仕組みづくり。部品の交換周期を見直したり、治具を作ったりする
保全の考え方には「事後保全」と「予防保全」があります。事後保全は壊れてから直すやり方、予防保全は壊れる前に部品を交換してしまうやり方です。近年は生産を止めない予防保全に力を入れる工場が増えていて、点検とデータ管理の比重が上がっています。
ライン作業との一番の違いは、仕事の目的が「作る」から「動かし続ける」に変わることです。自分が手を動かした分だけ製品ができる仕事ではなく、工場全体の稼働を支える仕事に変わります。ここが面白さでもあり、責任の重さでもあります。
なぜ今、設備保全の求人が増えているのか
設備保全に未経験から入りやすくなっている背景には、はっきりした理由があります。
ひとつは製造業全体の求人が増えていることです。2026年7月の有効求人倍率は1.18倍、新規求人倍率は2.10倍で、製造業の新規求人は前年同月比で6.8%増えています(※1)。求職者1人あたりの求人が2件以上ある状態で、応募する側が選べる環境が続いています。
もうひとつが、保全を担ってきた世代の高齢化です。正社員が不足していると感じている企業は51.4%(2025年4月時点)にのぼり、製造業や建設業でとくに顕著だとされています(※2)。製造業の若年就業者はこの約20年で121万人減り、逆に高齢就業者は33万人増えました(※2)。
つまり、設備を直せるベテランが定年で抜けていくのに、後を継ぐ若手がいない。この技術継承の危機感から、「経験者を待つのではなく、未経験者を採って時間をかけて育てる」方針に切り替える工場が増えています。EV・バッテリー・半導体といった分野で新しい工場の建設が続いていることも、保全人材の需要を押し上げています。
工場勤務者が設備保全で有利な5つの理由
未経験と言っても、まったくの異業種から入る人と、工場でライン作業をしてきた人とでは、スタート地点がぜんぜん違います。私が現場を見てきて「これは強い」と思った点を挙げます。
1. 機械を実際に触ってきた時間がある
設備の前に立って、どこにボタンがあり、どう動き、どこで詰まるのかを体で知っています。これは本や研修では埋まらない差です。
2. 異常の予兆に気づく感覚が身についている
「いつもと音が違う」「振動が大きい」「焦げたようなにおいがする」。毎日同じ設備のそばにいた人だけが持てる感覚で、保全の現場で実際に効きます。
3. その設備が止まると何が困るかを知っている
どの工程が止まると後ろがどれだけ詰まるか、納期にどう響くか。作る側にいた人は優先順位の判断が早く、これは大きな武器になります。
4. 安全意識とチーム連携が身についている
電源を落としてから作業する、声を掛け合う、指差し確認をする。工場では当たり前でも、外から来た人には一から教える必要があります。
5. 夜勤・交代勤務に慣れている
24時間稼働の工場では保全も交代制になることが多く、そこで脱落する人がいます。すでに慣れている人は、この点で有利です。
面接では「ライン作業しかしてこなかった」と引け目に感じる必要はありません。上の5つは、そのまま志望動機として言葉にできる材料です。
設備保全の年収はどのくらいか
気になる収入面も見ておきます。集計元によって幅がありますが、目安は次のとおりです。
| データ | 平均年収 |
|---|---|
| 求人統計サイトの集計(※3) | 約435万円(平均時給1,467円) |
| 公的統計をもとにした集計(※4) | 約512万円 |
| 年収帯のレンジ(※4) | 約310万〜800万円 |
年代別に見ると、20代前半は約351万円、ピークは50代後半で約645万円というデータもあります(※4)。専門性が積み上がる職種なので、経験年数と資格が収入に反映されやすいのが特徴です。
実際の求人でも、大手メーカーで月給30万円以上・残業月平均9.2時間・年間休日最大125日といった条件のものが出ています(※5)。ライン作業と比べて、必ずしも激務というわけではありません。
未経験から狙うなら押さえたい資格

設備保全は無資格でも就ける求人がありますが、資格があると選考で通りやすくなり、入社後の任される範囲も広がります。未経験から現実的に狙える順に挙げます。
第二種電気工事士
電気系保全の基本になる国家資格です。2026年度上期の合格率は学科62.2%・技能73.4%(※6)。学科は50問中30問正解で合格なので、基礎を押さえれば十分に届く水準です。過去5年で見ても学科56.0〜59.4%、技能70.3〜72.8%と安定しています(※6)。工場の設備は電気で動くものが大半なので、費用対効果が高い一枚です。
機械保全技能士(3級から)
保全職の代表的な国家検定です。3級は実務経験を問われず、これから保全に就こうとしている人でも受けられます。合格率は平成30年度〜令和6年度で47.9〜76.8%(※7)。まず3級で「保全をやる意思がある」ことを示し、入社後に2級(実務2年以上・合格率21.6〜41.2%)を狙う流れが現実的です(※7)。
危険物取扱者乙種第4類
化学・燃料・塗装系の工場で評価されます。取得しやすく、在職中でも進めやすい資格です。
電気主任技術者(将来の選択肢として)
難易度は上がりますが、取れば待遇が変わる資格です。入ってから長期目標に置く形でいいと思います。
ここで知っておきたいのが、資格取得支援制度です。未経験を歓迎する会社の多くが、受験費用や講習費を会社負担にする制度を用意しています。実際に「支援制度のある会社を選んだら、働きながら電気工事士を会社の費用で取れた」という声もあります。自腹で取ってから転職するより、支援制度のある会社に入って取るほうが早いケースは珍しくありません。
資格取得支援の有無は求人票に書かれていないこともあるので、dodaのような転職エージェントに登録して、担当者に直接確認してもらうと早いです。
未経験から設備保全に転職する4つのルート
進め方は大きく4つあります。自分の状況に近いものから動いてみてください。
- 社内で保全部門への異動を希望する
いちばんリスクが低いルートです。設備の知識がある人材として社内で動ければ、転職せずに職種を変えられます。上司との面談や自己申告制度で意思表示しておくと話が進みます。 - 資格を取ってから転職する
在職中に第二種電気工事士か機械保全技能士3級を取り、その実績を持って応募します。「本気で保全をやりたい」という証明になります。 - 「未経験歓迎」の設備保全求人に応募する
技術継承のために未経験を採って育てる会社は増えています。教育体制と資格取得支援がある求人を軸に探します。 - エージェント経由で内部事情を確認してから応募する
夜勤の有無、呼び出し(オンコール)の頻度、保全の担当範囲は、求人票だけでは読み取れません。ここを確認せずに入ると後悔しやすい部分です。
4つのうち、私が現実的だと思うのは「1を試しつつ、並行して2と4を進める」形です。社内異動が通ればそれが一番早く、通らなくても資格と求人情報が手元に残ります。
なお、夜勤や呼び出しの実態、求人の見分け方は設備保全はきつい?夜勤・オンコールの実態と後悔しない求人の選び方のほうに詳しく書きました。入る前に読んでおくと、求人を見る目が変わります。
まとめ
設備保全は、ベテランの高齢化と技術継承の必要から、未経験を育てる前提の求人が増えている職種です。製造業の新規求人は前年同月比6.8%増、正社員不足を感じる企業は51.4%という環境で、応募する側が選びやすい状況が続いています。
そして工場でライン作業をしてきた経験は、設備保全でそのまま強みになります。機械を触ってきた時間、異常に気づく感覚、安全意識、交代勤務への慣れ。どれも外から来た人には持てないものです。
まずは第二種電気工事士か機械保全技能士3級の勉強を始めること。そして同時に、資格取得支援や教育体制のある求人がどれくらいあるかを見ておくこと。この2つを並行すれば、半年後の選択肢はかなり変わります。
求人の中身まで確認するなら、dodaとリクルートエージェントの2社に登録しておくと、保全求人の数と条件を比べられます。どちらも無料で、登録しただけで転職が決まるわけではありません。まず自分に届く求人がどんなものかを見てみるところからで十分です。
参考資料
※1 2026年7月の有効求人倍率・新規求人倍率および製造業の新規求人の増減(転職市場動向まとめ/厚生労働省公表値をもとにした集計)
※2 正社員不足企業の割合、製造業の若年・高齢就業者数の推移(製造業向け人材メディアの集計)
※3 設備保全の平均年収・平均時給(求人統計サイトの求人データ集計)
※4 設備保全の平均年収・年収レンジ・年代別年収(公的統計をもとにした職種年収データ)
※5 設備保全求人の給与・残業・休日条件の例(大手転職サイトの求人情報)
※6 第二種電気工事士の合格率(試験実施団体の公表値をもとにした資格情報サイトの集計)
※7 機械保全技能士の合格率・受験資格(技能検定実施団体の公表値をもとにした資格情報サイトの集計)



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